――多分恐らく間違いなく、魔法というモノは誤解している。
【汎用少女型運命起爆装置・ラムダ】
退屈というバイオリズムは何にも増して苦痛な時間である、と何処かのエライ人は言った。だからきっと、こういった状態にならないためにあらゆる手を尽くせるのが、アクティブな人間というモノのボーダーなんだろう。南風の吹き抜ける昼休み、これ以上ないほどに綺麗な脱力ポーズを取った私に、誰も話しかける者は居ない。みんな栄養摂取やら、彼氏自慢やら、弁当自慢やら、この先の予定自慢やら何やらで忙しく、この逆方向に美しいメタモルフォーゼを称えようともしない。「退屈で……死にそう」呟く声にも力などなく、そのまま消えるに任せ、樫の机にキスをする。埃の味しかしなかった。「めめー」知らない人が聞いたら正気を疑いたくなるような呼びかけが、耳を打つ。恥ずかしながら、それが私の名前だ。「……日野原めめめ、只今セーフモードで運行しております。御用の方は、」「焼きカレーパン買ってきたぞ」――首を返すと親友、佳奈未ゆう子が、アツアツのお宝を手に微笑んでいた。後光が。透過光が。パライソ的ファンファーレが彼女のために奏でられた。ハレルヤ。「たーべーさーせーてー」「手ぐらい動かせバカモンが」素敵な笑顔と冷たいお言葉。その黄金比率が眩しい。涙が出るぜ。「らびんぐゆー!!」「はは、ケツ噛んで死ねよ」そう言いつつ、餌付けライクにパンを千切って付きだした口の中へ1つ2つ。人肌フラットの温度が優しい。「旨いか、めめ」「旨いです、めめ」「語尾るな、メンドクサイ。つーか、今日はヘビィに鬱っとるな」「精神的に生理が遅れている状態であります隊長」「そいつぁーめでてえ。花なら贈ってやるから達者で暮らせよ」「……ノリが良すぎるっす、佳奈ちゃん」「何の文句があるか」分針風速、秒針一周、そう言った単位のサビが少しずつ落ちていくのを私は感じた。ともだち。佳奈ちゃん。宝物だ。「愛してるぜ、ゆう子」「指輪の1つでも渡してから言うんだね」「プルタブで良いっすか」「それで殴られたいんならな。あと、次に名前で呼んだらコロスから」「夫婦なのに!!」「離婚だ」ぺらぺらとバイト情報誌をめくりながら、鋭角メガネをくくりと上げる佳奈ちゃん。つれない漫才で消費した時間を取り戻すが如く、無言で情報を摂取。採取。付箋。黙読。「佳奈ちゃーん」……スルー。「佳奈未さまー」……携帯。「ゆう子ちゃ」……殺意。「――何だ、ケツ女。バットなら後でねじ込んでやるから今は黙れ。ウザイ」「や、あの、コミュニケーションというか、質疑というか、国会的答弁をですね」「つまらんことを言ったら蹴るぞ?」「ガチですか」「ガチです」優しい最後通牒を突きつけられて、さびしい私は後悔と雑念と恐怖で理想的なテンパイに到る。「ええと、ええと」汗だくになりながら、数巡後。発言する。「――空は、死にますか?」佳奈未ゆう子の目は一瞬、殺人的に見開かれ――そのまま、ゆっくり閉じていった。「青いモノは、死なない」静かな、絞りきるような声に、反応が遅れる。「……え?」「それぐらい知っときな。めめ、空は死なない。海も死なない。だが、青に争いを挑むモノは、みんな時間を喪って死ぬ。死にたくなければ青になれ。殺したくなければ青くなれ。守りたいモノがあるなら青いモノを知れ。それがアンタに許された力だ」真っ直ぐ私を貫く瞳。そこには、茶化した好意も澄んだ悪意もなく、ただ意志が統合されたイロのみが映り込んでいる。それは、光子分解されても曲がりそうにない、彼女の固定したベクトルだった。「天使になれよ、日野原めめめ。あたしは、そう望んでいる」
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