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 「ゴミ箱・シュートッッ!!」

 どうでも良いかけ声を付けながら、美咲里は丸めた紙屑を斜め後ろのゴミ箱へと放り投げた。
 結果、ハズレ。

 「取って」

 「後始末は自分でやれ」

 素っ気なく言い捨てて、俺は目の前の事務原稿を整理する。
 まとめてもまとめても終わらないデータ出しや、テンプレのような挨拶文。
 各種バラバラのサイズと内容で入ってきたニュース原稿を編集し続けていると、
 何だかこの世が終わる準備をしているかのような憂鬱な錯覚に見舞われる。

 「リトラーイ」

 しかし、ここに来て女の(というかコイツの)精神は頑丈だ。
 どうでも良い事に興味を見出して即刻ゲームに仕立て上げる。

 わざわざ同じ紙屑でチャレンジするその根性もステキだが、
 手元の作業を全然進めていないと言うそのクソ度胸が羨ましい。
 つーか仕事しろ。

 「あぅ、惜しい~~」

 パタパタと、美咲里が会議室の端まで駆けていく。
 数秒。
 戻ってきて、

 「3度目の正直ッ!!」

 「おいこら」

 俺はとうとう呼び止める。

 猫のような無反省な目で見返してくる美咲里に理不尽な頭痛を覚えながら、
 俺はなるべく穏やかにこう言った。

 「頼むから仕事すれ」

 「なんでー?」

 「終わんねーからだ」

 現状を、コイツは解っていないんだろーか。

 経った2人の、『卒業アルバム編集委員』。
 仕事量は膨大だ。

 納期は間近。予算は半端じゃない額が掛かっている。
 つーかコケたらマジで殺されかねない、重要任務だ。

 「だーってー、七海が取ってくれないんだもーん」

 ぶーたれながら吐いた言葉には、またも理不尽な単語が。
 ……俺? 俺が関係有るのかよ?

 「外したらフォローしてよねー?」

 またもレイアップシュートの構え。
 俺は嘆息しつつもその行き先を見つめる。

 まぁ正直、作業漬けにも飽きたところだ。
 コレくらいの息抜き、問題は無いだろう。

 「とりゃっ」

 放物線を描く紙屑。

 それは夕暮れの日差しと埃を纏ってキラキラと輝き――、青いゴミ箱にすぽんと入った。

 「……入ったな」

 やれやれ、と言った心地で写真やら広告やら挨拶文やらと対面する。

 すると、

 「……取って」

 リピートする、言葉。

 「何でだよ?」

 「良いからー」

 ……釈然としない気持ちで、会議室の隅へと向き直る。
 比較的に中身の少ないゴミ箱を傾けると、真新しいコピー用紙を丸めたボールが、1つ。

 「コレだな?」

 「あ、一応広げてみてー?」

 脳天気な声に促されるまま、俺はくしゃくしゃになったそいつを広げ、

 「――――――ぉ、」

 呻いた。
 黒マジックの殴り書き。
 そこに書いてあった文面は、こう。

 

 「好きだっ、こんちくしょー!!」

 

 顔面を引きつらせる俺。

 その様子を確かめるように美咲里はニヤリと笑って、

 「合ってる、合ってる」

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