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 「――参ったなぁ、脳がやられると再生が遅いんだね。これから気を付けなくちゃ」

 「そうか。次はそんな記憶も飛ばしてやるよ。
 オマエ、脳漿ぶちまけるたびに、どんどん馬鹿になってくからな。
 可笑しくて仕方ないぜ」

 「そうなんだ。ふふ。私はね、お兄ちゃん。
 死って言うのが何なのか、もう少しで掴めそうなんだ。
 あと20回ぐらい潜れば大丈夫かなぁ。
 輪廻転生とか、循環生命とか、そう言うのにあとちょっとで届きそうだよ」

 「そうか。じゃあそれまでの間に、白痴にも劣る馬鹿女にしておいてやらないとなあ。
 あんまりにも馬鹿になりすぎて、地獄でまで兄貴に恥かかせんじゃねえぞ?」

 「あははははは、言うねえ。言うねえお兄ちゃん。弱い弱いお兄ちゃん!
 女に股ぐら乗っけられて、出すモノ出すしか出来ないお兄ちゃん!
 ――クソ喧しいぞ。馬鹿はアンタだろ短小が。
 あんな臭えモン人前でブラブラ振り回しておいて、良くそんなことが言える」

 ……聞くに耐えない。

 その後に起こった、殺し合いにすらなっていない数秒間の殺戮も。

 ざくざく、という何かの音が続いているのを無視して、私は裕貴に問いかけた。

 「ミコトは、本当に……死んだのか」

 「そうですよ。何度も言わせないで下さい」

 ざくざく、ざくざく。

 手は止まらない。

 「死体、は」

 「はい?」

 「……死体はあるのか? それを見せられない限り、私は認めるわけには行かない」

 今思えば、それは最大限の強がりだったろう。

 現実を直視しているのが、アイツの方だと考えたくなかったから。

 まだ自分の理解できる範囲に居て欲しかったから。

 この状況はどこかが嘘なんだと、信じたかったから。

 「死体? ハッ! 死体ねぇ?」

 苛ついた口調が、哀しい。

 「有りますよ? 死体なら、『そこら中』にね。気付いてなかったんですか?」

 ぬるり、という。
 手先の感覚に、恐怖を憶えた。

 視線を向けると、そこには、非現実的な中では比較的現実的な
 ――いや、やはり非現実的な――モノがわだかまっていた。

 据えた匂いの……吐瀉物。

 問題は、それがそこかしこにあると言うこと。
 到底、人1人が吐いた量とは思えない。

 「……………………あ」

 いや、これは、仮定の話。
 もし、仮に。
 コレが、比喩ではなく、ヒト1人分だったとしたならば。
 平均的な13才の女子を丸ごと『食って』、結果、床に吐き散らしたとするならば。

 それは。
 有り得る話なのかも知れな……、

 「――――っ!!」

 急激に喉を迫り上がってくる感触。
 息が出来ない。
 ココにいられない。
 それでもびしゃびしゃと漏れる、未消化なカタマリ。

 「手間かけさせないで下さいよ。コレは、集めて教会に持って行かなきゃならないんです」

 向けられた言葉は、ひどく冷たい。それに、絶望的なくらい病んでいる。

 

 「ふわあ」

 

 最悪なタイミングで、災厄が目を醒ました。

 「アレ、何この状況。ていうか私、裸なんですけど」

 「余裕のお目覚めだな、サクラ。
 起きてすぐで悪いが、目障りなコトする前に早速死んで貰うぞ」

 「あ、お兄ちゃんおはよー。何その出刃包丁。刃こぼれだらけで全然怖くないよ?」

 「ん? ああ、こりゃオマエの肋骨開くのに使った奴だからな。
 心臓捻りだしても意味ねえのに、無駄な苦労したモンだぜ、全く」

 「そうだね、意識がすぐになくなるからあっけなく終わっちゃうのに。
 1人でお水遊びして疲れちゃんだから。
 本当にお兄ちゃんってば、お・ば・か・さーん。あははははははは」

 「はははは! そうだなぁ。今度は生きたまま子袋引きずり出してやるわぁ。
 そうすりゃ痛みで気絶もできないだろうが!! なぁ?!」

 「あっははははは! 相変わらずお兄ちゃんって殺し方が下品なんだから。
 いいじゃん、それ。楽しませてよ。青息吐息でフラフラな癖に出来るの?
 もう体力尽きちゃってるんじゃないのぉ?!」

 「うるせえぞクソジャリ!! 月のモンもまだ来ない癖に色気付きやがって。
 石突っ込んで縫ってやるから感謝しろよコラァ!!」

 「吠えてねえで掛かって来いよクソ兄貴が!! 
 遊んでやってりゃ良い気になりやがって。
 今度はテメェの股の役立たずを犬の餌にでもしてやるよ。
 種までまとめて犬の糞だっ!! 泣いて喜べこの――」

 

 「止まれ」

 

 我慢の限界だった。

 アタマの後ろがシン、と冷えている。

 さっきまでの不快感も、まとめて消え去ってしまった。

 ああ、哀しいな。
 私は――、コイツ等を「人間以外のモノ」と判断してしまったらしい。

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