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 「探しに行かなくちゃ」

 彼女はそう呟いて出かけていった。
 いつものことなので放っておく。

 一週間前、いきなりドアベルを乱打した挙げ句「私を拾って下さい」とのたまった彼女は、
 何か良くない病を抱えている。

 それを拾った上にちゃっかり頂いてしまっている僕も僕だと思うが。
 妙な小説ばかりを読んで浮き世から離れた生活を送っていた所為か、
 現実離れしているこんな現象をも、怠惰な脳は受け入れてくれた。
 単に検閲機関が作用していないだけかも知れないが。

 ともかく、おはようの挨拶と共にあっさり手首を切る素敵なルームメイト様は、
 今日も食後のお散歩に出かけた。
 特に心配することはない。
 返ってきた後はバネ仕掛けの人形の如く激しいテンションで作り話を聞かされるから、
 心の準備だけはしなくてはならないが。

 ――どん、どん、ど、かこん。

 特殊なノックは彼女のモノだ。

 「開いてるよ」

 言うと、一呼吸置いて音もなくノブが回る。
 以前同居した男は、そうしないとご自慢のフックを見舞ったらしい。
 無駄に美しいスキルだ、と思う。

 今日は膝から下が泥まみれ。
 ドブでも漁ってきたんだろうか、酷い匂いが狭い室内を満たす。

 「……どうしたの?」

 彼女は後ろ手に何かを隠し持ちながら、焦点の合わない目で僕を見ていた。
 5秒。
 喋る気配がないので何か言おうかと思ったら、「見付けた」と言った。
 出かける前の記憶を掘り起こす――ああ。

 「何を?」

 極力優しく微笑んで、僕は何が出てきても良いように心の準備を始めていた。
 そして、

 「………………あ、」

 取りだしたのは、ハート型の容器……にタップリと盛られた汚泥だった。
 彼女は点滅するかのように泣き顔と笑顔を繰り返し、

 「アナタの心です」

 と言った。

 じゅくじゅくとうごめく泥の中には、名も知らぬような雑種の虫が蠢いていた。

 僕は頭部を後ろに傾け、ひとしきり笑ってから心中で呟いた。こりゃあ――ケッサクだ、と。

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