文章保管庫です
|
|
カテゴリー
カウンター
アクセス解析
|
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 小島くんがタクトを振ると、世界がそれに追随する。 全ての音階が小刻みに揺れる手に翻弄され、包み込むような表情と共に旋律が生まれる。 私は硬い木の椅子に腰掛けながら、 雨音のコンサート。 私は最大級の賛辞を送る。 「エアギターを誉めてるようなモンだよ」 ギターの弾けない人がフリだけで演奏するというアレね、と付け加えて彼は教卓に腰掛けた。 ――でも、 「今日こそは教えてよね」 私は追求する。『フリ』をする。 「その手の秘密」 ……少しの間と、苦笑い。 「敵わないな、弓月サンには」 教卓から降りて、彼は窓際へと歩いていく。 「昔ね、マジックをやってた時期があって」 どこからともなくボールが手の中に現れ、 「その応用だよ。指揮者のアクションって複雑だから、良く真似してた」 いくつにも分かれて、消える。ミスディレクションって奴だよ、と彼は付け加えた。 ……種は割れていたし、それが知れたところで特技であることには変わりない。 「えー、でも」 ここからが、 「やっぱり何か有るんじゃないかなーって」 本番。 間近でそのしなやかな指を見る。呟きが漏れそうになるのを必死で堪える。 ――何て、綺麗。 「何にもないって」 呑気に笑うアナタは知らない。私がどれだけこの指に焦がれているか。 「調べさせてよ」 ――もう、我慢が、 出来な、 「良いよ」 吐息。 初めて触れる、男の子の手。その指先。その爪。 「――あぁ」 声なんて気にしない。彫刻みたいな指の節を、額に、鼻先に、そして唇に押しつける。 彼はというと、困惑した顔のまま、糸みたいに細い目を見開いて驚いている。 私はくすくす、と嗤いながら、糸を引いた指を手放し、 「操って、みせてよ」 上気した顔で告げた。 「私も」 PR |
|