忍者ブログ
[43] [44] [45] [46] [47] [48]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 その迎えは、魔法を使わなかった日の午前3時にやってくる。

 合わせ鏡の中からやって来た悪魔はやれやれと嘆息を吐きながら、
 小生意気な私に向かって薬指を差しだした。

 慣れっこの事でもお互いに怖い。
 黒く尖ったそれを喉までくわえ込み、第3関節を境に思いっきり噛み千切る。
 ケミカルな紫色の体液に溺れかけながらも、私はそれを余すことなく飲み干した。

 カーテンが揺らめく。
 外は深紅の空。
 私は胃の中で生成された指輪を吐き出すと、それを股間に埋め直して夜に飛び込む。

 狩りは既に始まっていた。

 空翔る少女達は、思い思いの武装を手にしながら、いつ終わるとも知れない戦いに身を投じ、
 歓喜の雄叫びを上げている。
 明け方までの不死と恍惚に酔いながら、私は鋼鉄の鎌を振りかざした。

 血の雨が降る。
 瓦礫が美しく舞う。
 劫火が照らす。
 屍が泣く。

 嬌声と陵辱と略奪と暴力と破壊と冒涜と狂騒と姦淫の宴。
 おおよそ罪悪というのモノの限りを尽くしたような血みどろの舞。
 遠くに望む月食は、覚醒を待つ私達の目蓋に似ている。
 この空間で出来ないことは、無い。そう思わなければ、待っているのは緩慢な死だ。

 魔法は使わなければならない。
 悪夢に犯されながら学んだのは、その一つだけ。
 契約は、少女の死まで継続する。
 一度でも奇跡を望んだ者は、その法則に縛られるしかない。

 ――――――3時間が経った。

 運良く生き残ったのは、ちょうど2人。
 お互い、奪った肉と体液の所為で下っ腹が醜く膨らんだ上に、
 手袋と靴を履いている以外はほとんど裸だった。
 顔は原形を留めていない。
 それでも笑顔だと解ったのは、お互いの発する吐息がマイナー調ではなかったからだろう。

 飛び出す。
 折れた足で、バランスを愉快に崩しながら、重心をかけて、ただ前に。

  がつ、ん 。

 目の奥に散ったサイケなパターングラフィックを、遠い気持ちで見つめ、思い、倒れる。
 彼女は私の下腹部からキラキラと輝く指輪を取りだし、勝ち鬨を上げた。

 「おめでとう」

 祝福すると、彼女は女神のように美しく笑って、空へと上っていった。
 赤い瞼が開く。
 瞬時に私の意識は分解と再構成と転移を行い、
 果たして少女趣味な我が家の2階へと戻ってきた。

 時刻は8時52分。
 今日が日曜日で有るはずはない。
 だけれど重い生理がある。

 私はシーツをだらしなく引き寄せ、本日最初の魔法をかけた。
 おやすみなさい。
PR
この記事にコメントする
NAME:
SUBJECT:
COLOR:
MAIL:
URL:
COMMENT:
PASS:
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
忍者ブログ [PR]