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 四宮サクラ、卵焼きが死ぬほど好きだが、実は好物がもう一つ有った。

 ホットミルクである。

 初登校である今日、当然お弁当にはタマゴサンドをチョイスした彼女であったが、
 牛乳はあっても温めることは出来ない。

 さて困ったというとき、親友である村雨菊花は言った。

 「科学室にならガスコンロがあったけど……」

 ダッシュである。

 どこだかは知らないが、特別教室なら突き当たりにあると相場は決まっているのだ。

 それよりも、折角のお兄ちゃん謹製スペサルタマゴサンドのもふもふ・ほわほわの
 口当たりが消えない内に、ほかほかふんわりミルクで喉を満たさなければならない。

 これは卵好きの責務だと言えた。

 いや、むしろ運命かも。

 3.5無調整牛乳のパックを持ったまま廊下を走り続けること数分。

 「失礼しまーーーっす!!」

 すっぱーーーん、と引き戸を開け、
 そのリバウンドに側頭部を打ち付けるという離れ業をこなした後、
 サクラは久しぶりに、目が点になると言う感覚を味わうことになる。

 

 先客は、ビーカーでフルー○ェを食していた。

 

 インテリ眼鏡に無造作セミロングの彼女は、ポトリとその一口を落とす。

 沈黙は気まずい。

 だが、そんなことにめげるような精神は四宮サクラの中には存在しなかった。

 「ええと、アナタはどこの誰子ちゃん?」

 ビーカーの彼女は引きつり笑いを浮かべた。
 リボンの色が先輩を示す事なんて知った事ではない。

 伊達に6年引きこもり続けたわけではなかった。極まっている。

 「ボクは、宍道アイっていう科学部長だけど。……キミ、転校生?」

 幸か不幸か。先客も先客で余り普通の人ではなかった。

 奇跡的に繋がった会話に気を良くしてか、
 転校生ではなく復学生なのです、と胸を張って言った。

 絶好調である。やはりチョップをする人間は居た方が良い。

 そんな傍観者の心配をよそに、ブルーベリー好き? と言う話題に花を咲かせる2人。
 ガムなら好きと答えた後、手にした牛乳パックを目ざとく発見する宍道。

 ひどく残念そうな顔で、ごめんフ○ーチェはもう無いんだと言おうとしたときに、

 「そうだ、ガスコンロ貸して!」

 と、サクラがここに来た本題を思い出す。

 宍道アイの頭の中では煮えくり返る青紫色の乳状液がエンドレスで映し出されているが、
 勝手にそこらじゅうの戸棚を開けられては、忘我に浸る時間もない。

 「ごめん、それ部員が持って行っちゃった」

 えーー、とブーイング。この季節は鍋やるから仕方ないんだよー、となだめる宍道。

 またも気まずい空気が流れる。うなだれる2人。

 しかし、ここで今度は宍道アイの脳味噌が閃いた。

 「そうだ、準備室に電子レンジがあるよ!」

 ぺっかー、と顔を輝かせるサクラ。はにかみながら案内する宍道。

 

 と言うわけで準備室である。

 内緒で作らせた合い鍵でもって中に侵入し、雑多に散らかった机の奥でそれを発見する。

 ……まぁ、レンジだ。特に何を描写する必要もないくらいの平均的な電子レンジ。

 2人の目にはかつて無いトレジャーに見えているが、紛れもなくレンジである。

 さて、ココでかつてないサービス精神を発揮した宍道アイ。

 お客様用の三角フラスコを取り出して牛乳を注ぎ、
 あろう事かその中にマシュマロを投入し始めた。

 「お近づきの印だよー」

 もう四宮サクラ的にはキィちゃんと同列くらいの大親友に認定されてしまったカタチだが、
 君たち、それで良いのか本当に。

 さぁ、いざラップにかけてレンジにゴーである。

 当然、カメラは引かせて貰う。

 「わくわく」

 「わくわく」

 口で言うほど楽しみにしている2人。一応、花の女子高生である。

 無機質な音にご、ぽ、という異音が混じり始め――、

 あ、爆発した。

 ひっくり返った。ひっくり返った。

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