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× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 兄を憎んでいた。ずっと。 私の部屋は攻撃色に満ちた作りとなり、 粘土細工を解体するようになった頃、 父が一度だけ私の部屋を訪れた事があった。 それから程なくして、今度は兄が訪ねてきた。 「……父さんが、入院した」 そう素っ気なく言った後、 「見舞いに行こう――」 私は金属バットを壁に叩きつけ、訳の分からない言葉で吠え狂った。 ……細部は憶えていない。 数日後、溜まった汚物を棄てに部屋を出ると、 不細工さが、兄の作品であることを物語っていた。 私は、この時初めて、蓄積していた憎悪が薄れていくのを感じた。 荒れた髪を削り、溜まった垢をこそぎ落とし、 先に帰ってきたのは兄だった。 病院についてから、母はまず私を見て泣いた。 念入りに殺菌消毒を施された後、 見舞いは数日間続いたと思う。 深夜一時の霊安室、 「俺達は、毒素だ」 ――兄は、私の目を見据えて言った。 私には何もない。 「他には何も言えない。ただ、母さんは死ぬほど哀しんだんだ。 ――父さんも、」 言葉を遮って、母が漏れだした警報のように泣いた。いや、鳴いた。 ――がつん。 振り返ると、兄が全力で壁を殴りつけていた。 出血は少なかった。 ――右手が終わったら左手。 母の呟きが掠れきった悲鳴に変わる頃、 兄の両手は奇妙なオブジェへと変貌した。 胸の動悸が、早まっていた。 「――――――あ、」 どうしようもなく、思い出したことがあった。 私を責めていたあの手は 「すまない」 繰り返した。 「すまない」 兄の目は、真っ直ぐ私を貫いている。 「――兄さん」 久しぶりに出した声は、ヒビ割れていた。 不出来な感情が芽生え始める。 それは、気が遠くなるくらいに甘美な、生の実感だった。 「本当に馬鹿ね」 私はコートに仕込んだ短銃を取り出す。 兄の目には疑問符しかない。 母の身体が絶頂に達したかのようにわなないた。 生まれて初めて上げた哄笑に酔いつつ、私は引き鉄に手を掛けた。 銃口はぴたりとこめかみに吸い付き、 PR この記事にコメントする
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