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 朝のメニューは卵焼き。
 これはもう、ウチの決定事項だ。

 キッチンを歩き回るスリッパの音で目を覚ますと同時に、お砂糖と混ざり合う卵の匂いが
 わたしを支配する。

 「わあ」

 ……う、よだれが出た。
 お気に入りの枕が汚れなかったことを確認して、
 わたしはぬくたいお布団から勢い良く跳ね上がった。

 跳躍、回転、着地。10.00。
 頭の中で審判員が拍手拍手。

 一通りの歓声を聞いて満足してから、昨日、何度も袖を通したブレザーを見やった。

 「えへー」

 自然に笑いが込み上げてきてしまう。
 朝からテンション高すぎです。

 でも、だって、ねぇ……仕方ないよ。
 わたしは、この晴れ姿をまた見せたくて。
 もうどうしようもなく、どきどきしちゃってるんだから――。

 「――ぅおはようございまーーすっ!!」

 すぱーーーーんっと引き戸を開け、朝の挨拶。
 そんな元気いっぱいのわたしを、お兄ちゃんは半目で見やって、

 「……朝からうるさい」

 のヒトコト。相変わらずの無愛想です。

 朝だけじゃなく、年がら年中こんな感じ。
 ほっとくと「ああ」「そうだな」「……」の3つしか台詞を言わない、
 とても無口でシャイで、でもそこが何となく可愛いキャラクターのお兄ちゃんであります。

 「……えへー」

 「む、また何かアホなこと考えてたろ」

 追記。最近はわたしの扱いがちょっとぞんざいです。
 もう少しいたわりなさい。

 そんなお兄ちゃんはと言うと、ほかほかご飯の湯気にくるまれながら、
 専業主夫然としたエプロン姿でコーヒーを飲んでいます。

 立ち飲みは良くないと言って言うのにいつまで経っても直しません。
 立って食事する癖も直しません。
 たまには一緒の目線で食事したいのにな。

 「――って、そうだ」

 「あ?」

 思い出した思い出した。今日機嫌良く目覚めた理由。

 「ねえねえお兄ちゃん、コレどう思う?」

 わたしは制服の襟を正し、余った袖をちょこっと摘んでターン。
 斜めのポーズでキメ。

 「どう思う?」

 繰り返す。

 「……似合うよ」

 「もっと心を込めて!」

 「うるさいな。昨日何回言ったと思ってんだ、全く……」

 「ぶー」

 「似合ってるから安心しろっての」

 わさわさと、大きな手がわたしの髪を撫でます。
 ……ああ、うん。何か別にコレで良いのかも。

 「充電充電ー」

 生きるパワーがほっぺたにまで行き届いたのを確認してから、
 そろそろ我が愛しのたまごやき様とご対面します。
 うーん、今日も美味しそう。

 「いただきまぁす」

 専用の先割れスプーンで、半熟の身をぐっと……、

 「うわあ」

 「よだれ、よだれ!」

 今朝はキノコとタマネギと挽肉を炒めたモノが中に詰まっています。
 クリティカル。素晴らしい。感動しました。

 「花マルです、お兄ちゃん!」

 「……そうか」

 あ、照れた。

 「照れてない」

 照れたんだ。

 わたしはそう心の中で思いながら、笑顔で卵焼きを頬張る頬張る。
 頭の中に栄養が回る回る。

 「(しあわせー)♪」

 「……こぼすなよ」

 やはり半目で言ってから、お兄ちゃんは左手をぐっ、ぱー、と結んで開いた。
 前に怪我をしたときの癖で、そうやって神経が繋がっているかどうか確かめていたみたい。
 今では、外側に余り開かないぐらいで、特に不自由はないみたいだけど。

 「今日から学校だろ?」

 マグに顔を埋めて、お兄ちゃんは言った。

 「友達には連絡したのか?」

 「うん。いつもの場所で待ってるって」

 「――――そう、か」

 長いタメを作って、一息を吐く。

 「早く、慣れると良いな」

 何故か寂しげに、

 「学校」

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