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× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 「どうにも解らねぇんだが――」 魔王、村上サイファは悠然と言葉を投げかけて来た。 「何でオマエらはそうまでして生きたいかね? 惨めだと思わねぇのか、その姿が」 煌々と照りつける月光の下、あたしはボロ屑のような格好でへたり込んでいる。 「アンタだって――」 皮肉のつもりで開いた口に、鉄の味が広がった。噛み殺しながら続ける。 「アンタだって持ってるじゃないか。名前と、……称号を」 ――ぐい。 癇に障ったのだろう。一回り小さい手が、喉を握りつぶす勢いで、あたしの襟首を掴んでいる。 「名前なんてのは、記号だよ。自ら進んで付けて貰うモンじゃない。 おぞましいほどに鮮やかな、深紅の瞳。 ソイツは明らかに怒っていた。 「化け猫はな、群れて初めて完全体なんだ。その点ではヒトと変わりない。 それを――、」 その視線が、凍てつく。
「その完成形を、オマエら出来損ないが『狩る』ってのは……いかがなモンかな、オイ」
この街に住む猫は、2種類ある。飼い猫と、野良猫だ。 飼い猫は、神楽という組織の鈴と名前で括られ、個別の自我を持ち、人間の命に従う。 野良猫は、群体として強大な力を振るう代わりに声を失い、 そして……元々は全ての猫が、使い魔として彼女に隷属していた。
「敬意を払って名前で呼ぼうか。 あたしの髪をぐいと掴み、同じ目線まで引き上げる。 「ハヅキ、オレは動物が好きだ。滅多に殺さん。それが自分の使い魔だってンなら尚更だな。 魔王が笑う。気付くと奥歯が鳴っていた。 「だが、使い魔同志で潰し合われちゃあ、 神楽のクソ女共は、オマエらをコマにするだけじゃなく、 それも教会と拮抗したいっていうたわけた自尊心の為にだ。 ――捕獲した仲間が毎日チリに帰っていくのは知ってんだろうなぁ? 界門御者のクソ野郎が自前のサーバを維持したいがためにだぞ?! テメエら――、電池にも劣る扱い受けてまで、 今にも食い殺さんばかりの勢いで、紅い魔王は牙を剥き、猛っていた。 「オレはアイツらを許さねぇ。絶対にだ。皆殺しにする。虚勢じゃねぇのは解るだろ? だから――」 するり、と。手が首輪の……タグへと伸びる。 「帰ってこい、オレの所に。こんなモノが無くたって、猫は幸せになれるんだぜ? ウチは相変わらず猫屋敷だよ。飯代だってギリギリだが、そんなにマズイ物は喰わせてない。 だから、……な?」 懇願するような目で、魔王はタグを握ったまま、離さない。 ……頷くのを、待ってるのか。 切なそうな顔をしたまま、耳の後ろを愛撫される。 少しだけ、声が漏れた。 ああ、思い起こせば、昔。 あの縁側で寝そべっていた日向も。 そんなに悪いモノじゃ無かったような――。
「みっともないですわよ、『元』マスター?」
ひゅん。どどどど、ど。 風切る音を聞いたかと思えば、着弾した銀矢が5つ。全て首を貫通していた。 ごう、と。 酸化した秘薬が一斉に炎を噴き、魔王は叫声を上げる。 「こっちへ!!」 青い袴の巫女が、あたしを引きずって路地の裏へと後退していく。 「ひどい……こんなに痛めつけるなんて」 三つ編みに眼鏡の彼女は、あたしの折れた手足を見てから、 「貴っ様あああぁぁあぁああああっっっ!!!!」 腹の底から怒声を上げ、魔王が血を吐きながら復活した。 特製の銀の弓矢を掲げたまま、彼女――サヤは、不敵に微笑んで言い放つ。 「あら、御免あそばせ? 「……何度目だ、テメェ? これで何度オレの邪魔をしたっ?!」 「――6度。逆に言えば3度、間に合いませんでしたけどね。 きっ、と。サヤが魔王を睨み据える。 「――オマエら、いい加減に目を醒ませよ。神楽に良いように使われて、 「ぴーぴーと喧しいですわよ、猫屋敷のご主人様? 「オレはっ! オマエらの本能と意識を解放してやったんだ! 「――強く? それが余計なお世話だと言うんです。 私たちは、ひたすら呑気に、怠惰に、戯れに、愛玩されて生きていければそれで良かった。
「私、今の生活……結構気に入ってるんですの」
サヤは挑発的に笑った。 王は壊れたように嗤った。 激突を待たずして、私の意識は暗転する。 最後に覚えたのは、染み込んでいくような微睡みだった――。 PR |
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