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× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 鏡の中の世界と、壁の中の世界。どっちが一体マシなのだろうか。 特殊な運命配列を施した部屋の中で、青白く光る少女を見ながら、呆けたようにそう考える。 天使、悪魔、精霊、幽鬼、名称はどうあれ、架空存在を引き留める為の時間は、そうない。 合わせ鏡の間を、丁度体育座りのような格好を維持したまま、彼女は微速で移動している。 この儀式を発動させた後、無事に帰った者は居ないのだという。 喚び出したモノに心を奪われて下僕と化すか、あるいは術式を失敗して命を奪われるか、 決められた日に決められた場所で、数種の道具を組み合わせるだけのちゃちな召喚術。 これをやってみたいと思ったのは、要するにコレを無視できれば、 通り過ぎるまで、あと2分。 頭の中でそう計算してから、冷めきった缶コーヒーを一口啜った。 背中に未成熟な羽根を宿した少女は、奇跡のようなバランスを保った身体を見せつけるように、 頭頂部が鏡面に沈み、 不規則に刻まれた碧のグラデーションに不可能な波紋が走り、 水平方向の重力に引かれ、 ソレは圧倒的な存在感を惜しむことなく虚像の世界へと埋めていった。 ――数秒後、 破壊的なラップ音を伴って、術式に用いていた磁場が崩壊する。 鏡には、矯正など出来るべくもない歪みと破損が生じている。 年代物の写し鏡を蹴り壊すと、僕は破れた窓際に置いてあった木炭を手に取り、 3度ほど描線を描いてから、ソレをイーゼルごと投げ捨て、 炎熱の中、赤灼の逆光に照らされながら、漆喰の壁に堂々と1対の羽根を描く。 良く言えばポップ。 有り体に言えばコドモでも描きそうにないチープな落書き。 僕は焦げかけている背中に気付かないように微笑みながら、その絵の仕上がりに見入っていた。 PR |
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