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× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 差し出された傘の中には、雨を遮っている以上に意味のある何かが有ったのだと思う。 聡見は半ば睨み付けるような形相で、 「入らないのか」 と言った。 怒っていると言うより、困っているという感じの眉毛をしていた。 パラついている前髪。 眉間に刻まれたシワ。 何故か少し赤くなっている頬。 それらを順番に見下ろしながら、ようやく気付く。 「肩、濡れてるぞ」 「じゃあ早く入れ」 「入れと言われてもな」 「風邪を引いても知らないぞ」 それはどっちに言ってるんだろうか。 ――と思った直後に、 聡見はくしゃみをしようとしたモーションを無理矢理キャンセルして、 沈黙。 のーん、と伸びたそいつの鼻水を拭いてやりながら、訳の解らなさに泣きそうになった。 「あのな、誘いに乗ってやりたいところだが、残念な事が2つ有る」 「……言ってみお(ろ)」 「今日は、ちゃんと傘を持ってきてるんだ」 ほれ、と折り畳み傘を見せると、聡見はソレを奪い取って下駄箱そばの傘立てにねじ込み、 「クリア」 「クリアじゃねえっつーの」 べし、と容赦ないデコピンを見舞ってやる。 聡見は大きくのけぞった後、涙目になりながら、 「お前は傘に入れと言った女の誘いを断るのか」 と言った。 「それに関しては別に異論はないんだが」 「おう」 「理由その2だ。身長差が有りすぎて傘が役に立たん」 「む」 「俺もお前もズブ濡れになる」 言われて、聡見は横殴りに吹き付ける雨の様子を、5秒ほどまじまじと見続けた。 「むう」 一声唸ると、今度は自分の鞄から何かを取りだした後に、こう言った。 「2人とも濡れなければ良いんだな」 「出来ればな」 「なら、問題ない」 不敵に笑った後、傘を折り畳んで下駄箱に引っ込み、しばらく悪戦苦闘した後に戻ってきた。 牛が。 いや、牛模様の雨合羽を着込んだ聡見が。 「クリア」 「だから、クリアじゃねえっつーの」 ぐぐ、と『ベニヤクラッシャー』の異名を取る破壊的なデコピンを放とうとしたが、 パーカー部分になっている牛の顔を引き出して防御を試みたので、やめた。 というか、やる気が失せた。 「傘はお前が使え」 にゅい、と顔を出した聡見は、何とも言えないような良い顔をしていた。 「うひ」 笑いには品がなかった。 PR この記事にコメントする
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